HPLCで分析していると、
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いつもよりピークが早く出た
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分析を繰り返すうちに保持時間が遅くなった
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同じ試料なのに保持時間が安定しない
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一部のピークだけがずれた
といったトラブルが起こることがあります。
保持時間のずれは、ピークの同定やシステム適合性に影響するため、原因を確認せずに分析を続けるのは好ましくありません。
ただし、原因はカラムだけとは限りません。流量、移動相の組成やpH、カラム温度、平衡化、装置の状態など、さまざまな要因が関係します。
この記事では、HPLC初心者に向けて、保持時間が早い場合・遅い場合・ばらつく場合の原因と、確認する順番をわかりやすく解説します。
HPLCの保持時間とは?
保持時間とは、試料を注入してから、成分のピークが検出されるまでの時間です。英語では retention time といい、一般に「RT」と略されます。
試料中の成分は、移動相によってカラム内を進みます。その途中で固定相と相互作用するため、成分ごとにカラム内にとどまる時間が異なります。
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固定相との相互作用が弱い成分:早く溶出する
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固定相との相互作用が強い成分:遅く溶出する
したがって、保持時間が変わったときは、成分がカラム内を進む速さや、固定相との相互作用に影響する何かが変化したと考えます。
保持時間がずれたとき、最初に整理すること
原因をやみくもに探す前に、まず「どのようにずれたか」を整理します。次の3つの視点が重要です。
1.早くなった・遅くなった・ばらつく
保持時間の変化を、次のどれかに分けます。
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一方向に早くなった
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一方向に遅くなった
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測定ごとに早くなったり遅くなったりする
一方向への変化とランダムな変動では、疑う原因が異なります。
2.すべてのピークか、一部のピークだけか
すべてのピークが同じ方向にずれている場合は、流量、移動相組成、温度など、分析系全体に影響する要因を疑います。
一方、一部のピークだけがずれている場合は、移動相のpH、特定成分のイオン化、カラムの選択性、試料溶媒などが関係している可能性があります。
3.急にずれたか、徐々にずれたか
移動相やカラムの交換直後に急にずれた場合は、調製・設定・取り付けの誤りなどを優先して確認します。
分析を繰り返すうちに徐々にずれる場合は、温度変化、移動相の組成変化、カラムの汚染・劣化なども考えます。
HPLCの保持時間が早くなる主な原因
原因1.流量が高い
流量が高くなると、成分がカラム内を速く進むため、一般に保持時間は短くなります。
まず、承認された試験法や分析メソッドと実際の設定値を照合します。別の分析用メソッドを呼び出していないか、流量の単位や設定を誤っていないかも確認しましょう。
ただし、画面上の設定値が正しくても、ポンプが正確に送液できているとは限りません。必要に応じて、装置メーカーの手順や社内手順書に従って送液状態を確認します。
原因2.移動相の溶出力が強い
逆相HPLCでは、一般に有機溶媒の割合が高いほど成分は早く溶出します。
例えば、次のようなケースです。
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水系移動相と有機溶媒の混合比を間違えた
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別の濃度の移動相を使用した
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グラジエント条件や送液ラインの選択を間違えた
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移動相中の揮発しやすい成分が蒸発し、組成が変わった
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オンライン混合が正しく行われていない
調製記録、試薬、使用量、容器の表示、装置のライン接続を順番に確認します。
原因3.カラム温度が高い
カラム温度が上がると、移動相の粘度や成分と固定相の相互作用が変化します。逆相HPLCでは保持時間が短くなることがよくありますが、影響の大きさや方向は化合物・分離条件によって異なります。
設定温度だけでなく、カラムオーブンが実際に設定値へ到達し、安定しているかを確認します。室温の影響を受ける条件では、分析室の温度変化も手がかりになります。
原因4.移動相のpHが変化した
酸性・塩基性の成分は、移動相のpHによってイオン化状態が変わり、保持時間が大きく変化することがあります。
特に一部のピークだけがずれた場合は、次の点を確認します。
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pH調整前後の操作に誤りがないか
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指定された温度・手順でpHを測定したか
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緩衝液の濃度や種類が正しいか
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pH電極の校正や状態に問題がないか
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調製後の時間経過や揮発により組成が変化していないか
原因調査だからといって、承認された試験法のpHを自己判断で変更してはいけません。
原因5.カラムの変化や試料の過負荷
固定相の劣化や汚染によって相互作用が弱くなると、保持時間が短くなることがあります。また、注入量や試料濃度が高すぎると、カラムが過負荷となり、ピーク形状とともに保持時間が変化する場合があります。
カラムの型式、ロット、使用履歴、保管方法、注入量、試料濃度を確認しましょう。
HPLCの保持時間が遅くなる主な原因
原因1.流量が低い
流量が低くなると、成分がカラムを通過するまでに時間がかかり、保持時間は長くなります。
設定値に誤りがない場合でも、次のような問題で実際の流量が低下することがあります。
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ポンプ内に気泡が入っている
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移動相が不足している
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吸引フィルターが詰まっている
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チェックバルブが正常に動作していない
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ポンプシールや接続部から漏れがある
圧力が普段より低い、または圧力波形が不安定な場合は、送液系の問題を疑う手がかりになります。ただし、圧力が安定しているだけで流量が正しいと断定はできません。
原因2.移動相の溶出力が弱い
逆相HPLCで有機溶媒の割合が低くなると、一般に保持時間は長くなります。
手混合の場合は調製量や混合比を、装置内で混合する場合は各溶媒ライン、グラジエントプログラム、比例弁などを確認します。
移動相の調製ミスについては、こちらの記事でも解説しています。
原因3.カラム温度が低い
温度が低下すると、成分と固定相の相互作用や移動相の粘度が変わり、保持時間が長くなることがあります。
装置立ち上げ直後、カラム交換直後、空調条件が変わったときは、温度が十分に安定しているか確認します。
原因4.カラムの平衡化が不十分
カラム内が開始時の移動相組成で十分に置き換わっていないと、保持時間が安定しません。特にグラジエント分析では、前回分析の終了条件から初期条件へ戻した後の再平衡化が重要です。
必要な平衡化時間は、カラムの大きさ、流量、分析条件、固定相によって異なります。試験法やカラム・装置メーカーの取扱説明書に従い、過去の正常時と同じ条件で十分に平衡化します。
なお、圧力の安定は平衡化を確認する一つの手がかりですが、保持時間の再現性もあわせて確認することが大切です。
原因5.カラムの汚染や固定相の変化
試料成分がカラムに蓄積すると、特定成分との相互作用が変わり、保持時間やピーク形状が変化することがあります。
洗浄や再生を行う場合は、使用可能な溶媒、洗浄方向、流量などをカラムメーカーの説明書で確認します。自己判断で逆洗したり、カラムの使用範囲を超える溶媒やpH条件を使用したりしないようにしましょう。
保持時間が早くなったり遅くなったりする原因
測定ごとに保持時間がばらつく場合は、一定方向の変化よりも「条件が安定していない」可能性を優先して考えます。
主な原因は次のとおりです。
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ポンプの送液が不安定
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ポンプヘッドや配管内に気泡がある
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移動相の脱気や混合が不十分
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接続部などから漏れがある
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カラム温度や室温が変動している
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カラムの平衡化が不十分
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グラジエント開始条件への復帰が不十分
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移動相のpHや組成が時間とともに変化している
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カラムに汚染物質が蓄積している
保持時間の変動と同時に圧力も変動している場合は、送液系の異常が疑われます。
圧力トラブルの切り分け方は、こちらの記事を参考にしてください。
HPLCで圧力が高い・上昇する原因は?初心者向けに確認ポイントを解説
「全ピーク」と「一部のピーク」で原因を分ける
保持時間のずれ方をピークごとに見ると、原因をさらに絞り込めます。
| 現象 | 優先して確認する項目 |
|---|---|
| すべてのピークが同じ方向にずれる | 流量、移動相組成、温度、グラジエント条件、装置設定 |
| すべてのピークがランダムに動く | 送液の不安定、気泡、漏れ、混合不良、温度変動、平衡化不足 |
| 一部のピークだけがずれる | 移動相pH、特定成分のイオン化、カラム選択性、試料溶媒、カラム汚染 |
| 初期に溶出するピークだけが動く | 試料溶媒、グラジエント遅延、再平衡化、注入周辺の影響 |
一部のピークだけがずれる場合、流量だけでは説明しにくいことがあります。例えば、pH変化はイオン化する成分に強く影響する一方、中性成分への影響が小さい場合があります。
また、試料溶媒の有機溶媒比率が移動相より高すぎると、初期に溶出するピークの保持や形状に影響することがあります。
別のHPLC装置で保持時間がずれる場合
同じメソッドを別の装置へ移したとき、保持時間が一致しないことがあります。
確認したい項目は次のとおりです。
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実際の流量
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カラム温度と温度制御方式
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配管の内径・長さ
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ミキサー容量
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ポンプからカラムまでの流路容量
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グラジエントの遅延容量(ドウェルボリューム)
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オートサンプラーの構成
特にグラジエント分析では、設定した組成変化がカラム入口へ到達するまでの時間が装置によって異なるため、保持時間の差につながることがあります。
分析法移管や装置変更の際は、単にメソッド設定をコピーするだけでなく、装置構成の違いを確認することが重要です。
保持時間がずれたときの確認手順
初心者の方は、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
手順1.試験法・メソッド・記録を照合する
流量、移動相組成、グラジエント、温度、注入量、分析時間、使用カラムが正しいか確認します。
手順2.ずれ方を分類する
「早い・遅い・ランダム」「全ピーク・一部ピーク」「急・徐々に」を整理し、正常時のクロマトグラムと重ねて比較します。
手順3.圧力と装置状態を確認する
通常時の圧力と比較し、圧力低下、脈動、漏れ、気泡、移動相残量などを確認します。
手順4.移動相を確認する
試薬、ロット、秤量・採取量、混合比、pH、調製順序、脱気、使用期限、保管状態、送液ラインを確認します。
手順5.温度と平衡化を確認する
カラムオーブンが設定温度へ到達しているか、初期条件で十分に平衡化されているかを確認します。
手順6.カラムと試料を確認する
カラムの型式、ロット、向き、使用履歴、保管状態を確認します。あわせて試料濃度、注入量、試料溶媒、試料の調製・保管状態も確認します。
手順7.原因が特定できなければ相談する
手順書で認められた範囲を超える分解・調整は行わず、経験者、装置管理者、カラムメーカーまたは装置メーカーへ相談します。
GMP環境では「とりあえず再分析」に注意する
保持時間のずれが見つかったとき、移動相を作り直したり、もう一度注入したりすれば正常に戻ることがあります。しかし、最初の結果を無視して、都合のよい結果が出るまで再分析するのは適切ではありません。
GMP環境では、次の点が重要です。
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最初に得られたデータを保存する
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発生した現象と確認内容を記録する
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再調製・再注入・再試験は手順書に従う
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試験法を自己判断で変更しない
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システム適合性や試験結果への影響を評価する
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必要に応じて逸脱・OOS・OOTなどの手順に従う
保持時間のずれは、単なる装置トラブルではなく、データの信頼性やピーク同定にも関係します。原因と影響を整理してから、次の対応へ進みましょう。
保持時間のずれを防ぐための日常管理
トラブルを防ぐには、正常時の状態を記録しておくことが有効です。
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移動相を試験法どおりに調製・管理する
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移動相容器を適切に密栓し、揮発や汚染を防ぐ
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分析前に十分なパージと平衡化を行う
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カラム温度が安定してから分析する
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カラムの使用履歴と保管状態を記録する
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正常時の保持時間、圧力、圧力波形を残す
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装置の点検・消耗品交換を計画的に行う
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前回から変更した点を記録する
正常時の情報があれば、異常が発生したときに「何が変わったか」を比較できます。
まとめ
HPLCの保持時間がずれたときは、最初に現象を分類することが重要です。
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早くなった:流量増加、強い移動相、高い温度、pH変化などを確認
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遅くなった:流量低下、弱い移動相、低い温度、平衡化不足などを確認
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ばらつく:送液、気泡、漏れ、混合、温度、平衡化などの不安定要因を確認
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全ピークがずれる:装置や分析条件など全体に影響する原因を優先
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一部だけずれる:pH、選択性、試料溶媒、カラム状態などを優先
原因を切り分けるときは、正常時のクロマトグラム、圧力、分析条件と比較し、直前に変更した点から確認しましょう。
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