今回はPCRについてまとめていきたいと思います。
ちなみに下のイラストはPCRに使用するサーマルサイクラーという機械です。
いらすとやはほんとに何のイラストでもありますね。
PCRとは?
PCRとは、DNAの特定の領域を増幅する技法のことです。
これを聞いただけでは何の役に立つかわかりにくいですが、特定の領域のみを増幅できるため、PCRによって特定領域が増えるかどうか、また、増幅した領域を比較することで、比較を行いたい検体の間で、増幅対象のDNA領域が同一か否かなどを調査することが可能となります。
PCRの原理
PCRに必要なものは?
PCRに必要なのは、鋳型となるDNA、プライマー、DNAポリメラーゼ、dNTPです。
プライマーは増幅の起点になる短いDNA断片で、DNAポリメラーゼはDNAの伸長を行なう酵素で、dNTPは伸長の際に使用されるDNAの材料の様な物です。
PCRの工程は?
PCRの工程は基本的に以下の工程の繰り返しです。
二本鎖の一本鎖への熱変性
プライマーのアニーリング
DNAの伸長反応
ここまでを1サイクルとし、これを繰り返すことでDNAの目的の領域を増幅します。
DNAは通常、センス鎖とアンチセンス鎖が水素結合により結合した二本鎖の状態で存在していますが、このままだとDNAの伸長反応は起こせません。
そこで、熱をかけることでDNAの二本鎖の水素結合を切断し、一本鎖の状態にします。
これを熱変性と呼びます。
一本鎖になった後、温度を下げることによって、プライマーが伸長反応の起点となる部分いくっつきます。このことをアニーリングと言います。プライマーは2つ1組のものを使用し、増幅させたい領域を挟み込むようなものを使用します。
この後、 DNAポリメラーゼが働き、DNAの伸長反応が始まることでプライマーに挟まれた目的の領域が増幅されます。
このサイクルを繰り返すことで、目的の領域が倍々ゲームの要領で増えていきます。
ちなみに酵素はタンパク質なので、一般的には高温にすると失活してしまいます。
PCRでは、高温にも耐えられるDNAポリメラーゼを使用することで、DNAの熱変性の工程があっても、酵素反応を続けることができます。
PCRの種類
PCRには以下のような種類があります。
RT−PCR
RNAを逆転写酵素によりDNAにしてからPCRを行なう手法。PCRはあくまでDNAを増幅する手法ですので、RNAはそのままでは増幅することはできないため、逆転写酵素によりDNAにする必要があります。
RNAは生体内で対象の遺伝子が発現している部位に局在しているので、生体内でどのような遺伝子が発現しているかを調べることができます。
インバースPCR
DNA断片を制限酵素で切断後、環状にした後、通常のPCRと逆側にDNAの伸長反応を起こし、未知領域を増幅する手法。PCRは配列既知の部分にプライマーを作り、プライマーに挟まれた部分を増幅します。したがって、未知領域の増幅は少し工夫しなければいけません。
未知領域を含むDNA断片を環状化することで未知部分を増幅することができます。
ディジェネレートPCR
目的とするタンパク質のアミノ酸配列を指標にプライマーを作製し、PCRを行なう手法。目的タンパク質のアミノ酸配列が分かっている場合は、その配列から元のDNA配列を予測することが可能です。ただし、DNAでコードされるアミノ酸は一部縮重しています(例えばUUU、UUCといったように)ので、それを考慮したプライマー設計が必要です。
リアルタイムPCR
PCRによるDNAの増幅をリアルタイムにモニタできる手法。モニタ方法は基本的に蛍光色素を利用します。
PCRの用途は?
PCRは現在ニュースでもよく聞くようになった通り、ウイルス等の感染症の検査等に使用されます。
また、ある生物が特定の遺伝子を持っているか否かの分析や、持っているDNAの違いを利用した種の識別など、幅広い用途に用いられています。
植物や家畜の品種改良を行なう際も、目的の遺伝子を有しているかどうかの確認もPCRで可能となります。
分子遺伝学の分野では必須の技術となっています。
今回は前提知識として、DNAの基本的な構造等を理解していないとわかりにくかったと思います。
その辺りについても今後復習していきたいと思います。